抗酸化療法の是非

当会では、きちんとした食養生を中心に、良質な抗酸化栄養補助食品の摂取をオススメしていますが、最近の医学会ではサプリメントの摂取に否定的な発表も多くなされていて、ベータカロチンの摂取が喫煙者の肺ガンリスクを高めることが判明し、“フィンランドショック”と騒がれた事件は、あまりに有名です。

この辺りの事情が知られていくにつれ、抗酸化剤の摂取に不安を感じている人も増えているに違いありません。

まず、ご存知でない方の為に、この「フィンランドショック」の概要をご説明しましょう。

ビタミンAの前駆体であるベータカロチンは、緑黄色野菜に多く含まれ、他のファイトケミカル類と同じく、抗酸化作用を持ちます。

ついでに補足しておきますと、緑黄色野菜とは色が緑や黄色のものを言うのではなく、「原則として可食部100g当たりのカロチン含量が600μg以上の野菜」を指す言葉であり、それ以外の野菜を緑黄色野菜と区別して呼ぶ場合は「淡色野菜」と表現します。

このベータカロチンが肺ガンの予防に有効ではないかとの仮説から、実際に大規模な試験がフィンランドで行われました。

結果は驚くべきことに、ベータカロチンを与えた集団の内、喫煙者には肺ガンが2倍以上増加しました。

このショッキングな結果は、世界に衝撃を与え、結果として肺ガン患者を試験により作り出したことから、倫理面からの批判も高まり、試験は途中で打ち切られたと聞きます。

以上の実験結果のみ見れば、抗酸化剤の摂取は癌の予防に貢献しないどころか、有害無益なとんでもないシロモノのように見えますが、そう断定するのは早計です。

まず、この実験で使用されたベータカロチンは天然からの抽出物ではなく、合成物であった点です。

大抵こういった実験では、天然物ではなく、合成物が用いられます。

何故なら、天然物からの抽出物は原料の産地や気候などによって成分が変化するため、均一な試験をしたい場合には、都合が良くないのです。

しかし、全く同じ構造の化合物であるにも関わらず、人工物は天然物と同じようには働かない場合があることが知られており、これには幾つかの仮説があります。

一つは、天然物と同じ化合物を合成したつもりでも、実際には、天然の化合物に測定にかからない極小の部分があり、これを見落としているのではないかという説です。

また、化合物の構造決定に不可欠な構造解析という手段そのものが、何らかのエネルギーを投入して行うものである以上、不安定な活性状態にある物質には、本質的に馴染まない手法である点も指摘されています。

さらに問題なのは、このような実験では、対象を一つに絞って比較したい為に、実験系を可能な限り単純化せざるをえません。

ここに一番の問題点があります。

たとえば、上記の報告ではベータカロチンの摂取による癌予防には否定的な見解が示されましたが、実際に緑黄色野菜の摂取率が高い人の場合は、そうでない人と比べて癌の発生率は有意に少ないのです。

別の項目で述べてありますが、単一の成分を分離して大量摂取することは往々にして良くない結果を齎します。

少なくとも期待した効果以外の副作用が出ることは覚悟しなくてはなりませんが、臨床には単離成分でないと薬効の判定に曖昧さが残ってしまう為、全体の研究が大変困難になりますので、どうしても、成分の相互作用を排して、単一の実験系を作らざるを得ません。

単一成分の摂取としては、ライナス・ポーリング博士(ノーベル賞を2度受賞)が提唱した「ビタミンC療法」が有名ですが、これもあまり期待したほどの成果は上がっていないようで、あのポーリング博士の如き知性ですら、この辺りには気付いていなかったようです。

また、最近では、イソフラボンが女性ホルモンとして働き、悪い作用を及ぼす危険があるとして厚生労働省も注意を呼びかけていますが、これも他の多くの論文と同じく、単純な系での実験から導き出された視点であり、納豆を少々食べた位では何の問題も生じないと思われます。

合成したイソフラボンを大量に摂取する場合は別として、納豆のような伝統食に含有されているイソフラボンを云々するくらいなら、原材料の大豆生産の農薬使用はどの程度か、遺伝子組み換え大豆は使用されていないかなどの視点で考えるのが先でしょう。

今日抗酸化療法について、揺り戻しのような現象が起きているようですが、上記のような歪な系を基礎にして論じられている以上、抗酸化療法を頭ごなしに否定してしまうのは早計だと言えましょう。

過剰摂取の害を証明したとする臨床報告は沢山ありますが、それらは単離抽出物を対象にしているため、その成分をふくむ健康食品が、すべて過剰摂取によって有害性を持つのかどうかは、一概には言い切れません。

人間の体は恐ろしく複雑に入り組んだ系であって、教科書に書かれてあるような医学知識も、自然界では有り得ない特殊な設定条件を作り出した上での答えに過ぎず、それがそのまま人体に当てはまるわけではないのです。

抗酸化物質は基本的に野菜類から食事で補い、その上でバランスの良い抗酸化サプリメントを摂取するのが良いと当会では考えています。

それにしても不思議なのは、フィンランドショックの捉え方で、ベータカロチンの無能ぶりと危険性にのみ注目が集まってしまいましたが、あの結果から導き出されるのは、どう考えても喫煙の有害性でしょう。

喫煙者の立場から見るとベータカロチンを悪者にせざるを得なかったからでしょうか??

2007/03/09

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