自然と生命の医学 日野厚 著

半ば信仰と不可分であるような印象を受ける食養生の世界にあって、異彩を放つ故日野厚先生の名著。

元々マクロビオティックの開祖・桜沢如一氏の下で活動していた日野先生は、桜沢式の食養と袂を分かち、独自の歩みを始められます。

玄米菜食一辺倒ではなく、動物性食品を徒に排斥することなく、鍼灸や漢方、断食なども取り入れ、あくまでも食を中心としたホリスティックなアプローチにその特色があります。

本書『自然と生命の医学』では、食に関わるあらゆるテーマを膨大な文献を駆使し、抑えた筆致を用い、データに物を言わせる手法で、一見煩雑な印象を与えますが、これがなかなか隙の無い記述で読者自身の頭で考えさせる方向へ巧みに誘導して行きます。

1965年の初版(写真は1981年に出た正続の合冊版)ながら、今読んでも何の遜色も無いのは、日野先生の慎重極まりない姿勢によるものでしょう。

といって、常識を羅列しただけの面白みの無い本とは正反対の内容ですから、勉強になること請け合いです。

何故これほどの名著があまり知られることなく、玄米菜食をゴリ押しすること金太郎飴状態の駄本が溢れかえっているのか首を傾げざるを得ませんが、恐らくは本書のようなスタイルは、はっきりした分かり易い食事の指針を求める人には受け入れられないからでしょう。

「だまって俺に付いて来い!」と言わんばかりの絶対服従型の食養生を求める人には、きっと「かったるい」本に映るに違いありません。

しかし、異常な情熱で取り組むことを強要する巷の食養本にウンザリしている読者もきっとおられるはず。

そんな方々の為に、日野厚先生の『自然と生命の医学』を心からオススメします。

もともとの日野先生の立場が、マクロビオティクへのアンチテーゼを秘めたものですから、マクロビオティクやその他の食養を試みて長続きしなかった方や、望ましい結果を得られなかった方も是非お読みになることを希望します。

日野先生は、大田区の松井病院に日本で唯一の「食養内科」が開設されてから、懸命に患者の治療にあたっておられましたが、残念ながら平成元年に腎臓癌により他界されました。

現在、食養内科は長岡由憲先生に引き継がれ、存続しておりますから、ご興味のある方はHPをご覧になると良いでしょう。

http://www.matsuihsp.or.jp/shokunai/

なお、本書『自然と生命の医学』の続編である『人間の栄養学を求めて』も素晴らしい名著であり、日野先生の著書の復刊が望まれます。

2007/05/25

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