“瞑眩”の危険性

以前、知人の健康食品販売業者が、さかんに「めいげん」という言葉を連発するので、何のことかといぶかしんでいたら、「好転反応」という言葉が出たので、「あ〜瞑眩のことか」と驚いたことがあります。

「瞑眩」と書いて「めんけん」

確かに知らないと読めないかもしれません。

本来は漢方のコーナーで解説するべき用語ですが、最近あまりにも健康食品業界で多用される用語ですので、あえてこのコーナーでご紹介しようと思います。

瞑眩というのは、今風の言い方で「好転反応」と表現される反応なのですが、明らかな害作用である中毒症状や副作用とは区別され、その反応が収まった後には症状が劇的な改善を見せるもののことを言います。

薬を飲んだ後に一時的に起こる反応であり、場合によって症状が凄まじく悪化したように見えるものから、体がダルくなる程度の軽いものまで様々な程度があり、事前に予知することはできず、必ず起こる反応ともいえないために、治療する側も予め注意しておくことができない難しい反応です。

『書経』には「薬瞑眩せずんばその病癒えず」とあり、古来からこの反応が望ましいものとして捉えられていたことが伺い知れます。

瞑眩は、投与された方剤が患者の「証」に合致した際に現れる反応とされており、理屈としては病気の原因になっている体内の病毒が、居場所を失って外に逃げ出すという解釈がなされているのですが、これらの機序も現代の医学では解明されていません。

反応が起こった後は劇的に症状が改善するわけですが、治癒には必ずその反応が不可欠と言うわけではない所が難しい点で、漢方家でも、「古方」、つまり後漢の張仲景が著した『傷寒論』と『金匱要略』を基礎とする流派では、瞑眩が積極的に現れることを目指し、瞑眩が起こらない漢方薬は効き目が無いとする一方、室町時代に明に留学し、李朱医学を学んで帰国した田代三喜に始まる「後世方」という流派では激しい反応が起こるのは極力避け、瞑眩をなるべく出さないような方法を採っています。

どちらが良いのかはさて置き、絶対に起きなければならない反応でないことはおわかりいただけたでしょう。

問題なのは、この専門家でさえ予測できず、なるべく出さないように努める流派があるほどの「瞑眩」が、健康食品業界では頻繁に起こる反応として語られている点なのです。

本当にそれが瞑眩ならば、確実に病気は回復に向かうのですが、専門家でも見分けが容易ではないものを、おおよそ医学知識に疎いサプリメントの販売員が「めいげん反応ですから大丈夫です」と、軽々しく「めいげん」を扱うのは大変な危険を孕んでいると言わねばならないでしょう。

葛根湯などの古くからある方剤は、長い歴史を経た情報の集積があるため、専門家なら容易に副作用かどうか見分けがつきますが、歴史の浅い健康食品で起こる反応の場合、専門家でも瞑眩かどうか、判別できるかわからないのです。

単なる副作用か、はたまた霊験あらたかな治癒への一里塚か、素人にはなおさら判別容易ならざるものでしょう。

また、今日の日本の漢方家によると、明らかに瞑眩と思われる現象に遭遇することは極めて稀であるらしく、ある漢方家は「数千件に一件」とまで言っています。

勿論、古方派か後世方派かによって、瞑眩に対するスタンスも、用いる方剤も異なってきますから、一概には言えないでしょうが、附子(トリカブト)などの明らかな毒物も薬として用いる漢方においてすら、「実際には極めて稀な反応」とする人もいるということは記憶に留めておくべきでしょう。

なお、この「瞑眩」を体系的に説明したのは、江戸時代中期に京都で活躍した吉益東洞という医家で、自ら提唱した「万病一毒論」において、この反応を詳細に論じています。

本場、中国の医学会においても、この言葉はあまり使用されず、たとえ文献に見える場合でも、最近になって日本から逆輸入されたもののようです。

初出である『書経』自体が医学書ではありませんから、吉益東洞によって注目される以前には、あまり知られていなかった言葉のようです。

■〜瞑眩恐るべし〜

健康食品業界では、大抵販売する側には古典医学の知識などありませんから、「絶対に副作用のおこらない安全な製品であるから、なにか起こればめいげんに違いない」と思っているようで本当に恐ろしい限りですが、ことによると健康被害が出たときの逃げ口上に、責任回避の魔法の言葉として用いているようにも見受けられ、もしそうであるなら、かなり悪質で断罪されるべきものであることは言うまでもありません。

健康食品による健康被害については、内藤裕史先生の『健康食品・中毒百科』が、日本において大きな市場を持つ健康食品の大部分を網羅した画期的な内容になっていますので、この分野に関わる方には必読の書と言えます。

また、最近民間療法で現われる反応を全て好転反応で片付けてしまおうとする風潮があることは、日本の民間療法家の水準の低さを端的に物語っている現象と言えましょう。

それに、もし本当に瞑眩が起こるようなサプリメントだった場合でも、頻繁に激烈な反応が起こるのだとしたら、「健康食品」として取り扱うのは好ましくありません。

きちんとした医師や治療家の指導の下でなら、激しい反応が起こった場合でも、患者さんのきめ細かいサポートが可能ですが、医学知識も資格も技術も持たない一販売員に対処できる問題ではないはずです。

勿論、世の中には様々な人がいるので、敏感な人にまれに瞑眩反応が起きる程度でしたら構わないでしょうが、頻繁に反応が起きる健康食品はどう考えても軽々しく人様にオススメすべきものではありません。

ちなみに、私の漢方の師は、吉益東洞を非常に尊敬されていますが、それでも「現代において瞑眩反応を起こすことは、薬局の漢方家には許されることではない」と言い切っていました。

一つの目安として「めんけん」派よりも「めいげん」派の方がいかがわしい連中が多いと思われたらよいでしょう。

2007/03/07

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