玄米とフィチン酸

食養の世界に長く身を置いてきた方のなかには、玄米を中心とした食事によって、現代医学から見放された、癌をはじめとする難病奇病の類が、驚くほど簡単に軽快した例を見てきた方もおられるでしょう。

しかし、その反面、病状がみるみる悪化し、時に死に至ったような不幸な例も少なからず見聞きするのは残念なことです。

この辺りの詳細は『粗食のすすめ』の著者として知られる幕内秀夫先生が「玄米正食批判試論」として論じておられますから、一読をお勧めしますが、ここでは玄米食の有益性と有害性をフィチン酸の観点から考えてみたいと思います。

フィチン酸は、ビタミンB群の仲間に分類されるイノシトールに6個のリン酸基が結合して出来たリン酸化合物で、植物には広く分布している天然成分です。

このフィチン酸は、強力な排泄作用によって毒素を出す働きがあるため、体内の浄化を促し、様々な疾病の改善に役立ちます。

いわゆる玄米の征ガン作用というのは、このフィチン酸の働きによるものと考えられています。

近年では多くの研究報告がなされるようになり、当初考えられていた腸がん以外にも、肝臓がんや乳がん、肺がんなど、様々なガンに効果があることもわかってきました。

また活性酸素・フリーラジカルによってDNAが傷付くことを抑制するという報告もあり、老化防止への応用も考えられていますし、心臓・血管系の疾病や、高脂血症、糖尿病にも有効であるらしいとの報告もあります。

このように書きますと、フィチン酸は良いこと尽くめで、玄米食がまさに魔法の食事に見えてくるかもしれません。

ところが、フィチン酸はキレート作用によって、亜鉛やカルシウム、鉄分等のミネラル分と強く結合して、その吸収を阻害し、ミネラル不足を招くことも分かっているのです。

玄米原理主義とでもいうべき、熱烈な玄米愛好家の中に、顔色がドス黒く、どう見ても不健康な人が少なからず散見されるのは、フィチン酸の負の作用によって、ミネラル欠乏症になっているものと考えられます。

通常、玄米中でのフィチン酸は、ミネラルと強固に結合した状態で含まれ、そのまま摂取しても、玄米中のミネラルはほとんど吸収されず、その上、体内に蓄積していたミネラル分とも結合して体外に排出してしまうために、デトックスとミネラル欠乏症という諸刃の刃になってしまうのです。

ところが、この問題点は「発芽」させることで解決することができるのです。

発芽の過程で、フィターゼという酵素の働きにより、フィチン酸とミネラル成分が独立して吸収されやすい形に分解され、フィチン酸の負の側面が無くなり、本当に私たちの健康生活に有益な食べ物に変わります。

また発芽の過程で、酵素の働きにより、栄養成分が変化するのですが、特に「ギャバ」(ガンマ-アミノ酪酸)が著しい増加を見せることが分かっています。

ギャバは、主に抑制性の神経伝達物質として、脳の興奮を抑える精神安定物質として働き、脳細胞の代謝を促進するとも言われており、一部の研究者が言うところの「玄米を食べると頭が良くなる」というのは、咀嚼による脳血流量の増加もさることながら、この「ギャバ」の働きがあるのかもしれません。

以上のように玄米は発芽させて食べるのがベストであるといえるようです。

ここで少し詳しい方なら、「フィチン酸は小麦等にもたくさん含まれているのだから、小麦を食べても征ガン作用があるのではないか?」という疑問が湧くかもしれません。

しかし、そういうことはないと考えられます。

フィチン酸に限らず、有益な成分は単一で働くのではなく、様々な他の栄養素との相互作用によって働く(小麦は栄養価が乏しい)のであって、単一成分だけの含有量を見て食品の良し悪しを決定しても、本当の効果は期待できないのです。

玄米に限らず、食品中の栄養素による相互作用は、まだまだ研究途上にあり、未解明の部分ばかりですが、「部分より全体が大切」ということを頭の中に留めておくことが重要だといえます。

2007/02/08

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