酸性の血液なんて有り得ない!

健康食品や水、あるいは食養生などの分野で、血液の酸性・アルカリ性が問題にされることは珍しくありません。

健康な人間の血液はアルカリ性であるが、これが酸性側に傾くと、癌をはじめ、様々な病気になるというもので、酸性に傾いたものを“アシドーシス”と呼び、アルカリ性に傾いた状態を“アルカローシス”と呼びます。

この理論を基に、アルカリ性食品の摂取を勧めたり、アルカリイオン水の飲用を奨励したり、特定の健康食品によって、酸性体質からの脱却を図ろうというPRが様々に行われています。

この通説は、最近ではかなり批判がなされていますので、医学的に間違った説であることを御存知の方も多いようですが、未だにこのような内容を放映する破廉恥なテレビ番組を見かけますし、書籍に至っては野放しになっていますから、本項にて簡単に御紹介しておきましょう。

結論から言って、リドリー・スコット監督の「エイリアン」よろしく、人間の体液が酸性になることは絶対にありません。

私達の血液のpHは7.3〜7.4の間のほぼ中性に近いアルカリ性に調整されるように、ホメオスタシス(恒常性維持機能)によって厳密にコントロールされており、これが0.1変動しても我々は死に至ります。実際には有り得ないことですが、これがアルカリ性側に傾いたとしても、疾病云々どころか、生存さえ危ういのです。

当然、健康食品やアルカリイオン水、玄米菜食などで血液のpHが変動することも絶対に有り得ません。

この血液の酸塩基平衡論は、日本では元々、京都帝国大学の生理学者松浦有志太郎教授が提唱されていたもので、新聞記者だった大浦孝秋氏が、この理論を普及させるために人間医学社を設立し、大阪大学医学部の片瀬淡教授を理論的支柱として全国を講演して周った事で広まりました。

片瀬淡氏の理論は、片瀬学として知られ、カルシウムの摂取によって、酸性体質を改善しようとするものでしたので“カルシウムの医学”とも呼ばれました。

この理論は、血液が酸性になるとか、アルカリ性になるとかいう点では、今日の医学的見地からは不正確な内容を含むものではありましたが、その内容が有害無益なものであったかというとそうではないのです。

この酸塩基平衡論を今日において正しく理解するならば、血液が酸性側へ傾こうとするベクトルがアシドーシスであり、その逆がアルカローシスなのであって、例えば、砂糖の含まれたものを多く食べたり、動物性の食品を過剰に摂取する等した結果、血液中に酸性の基となる物質が増えると、それを防ぐために骨からカルシウムが溶け出して体液を所定のpHに保とうとする訳です。

実際に体液のpH変動が起こるわけではないのですが、酸性化回避のために、カルシウムをはじめとするミネラルが使われてしまうため、その事による悪影響が出てしまうのです。

たとえば、カルシウムが溶出すれば骨が脆くなりますし、カルシウムは神経の興奮を抑える作用を持つことから、その欠乏はイライラしやすい状態をも作り出します。

このように、体液のpH変動そのものは間違いでも、その理論には今日の私たちが学ぶべきものも多いようです。

2007/04/19

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